赤目の狩人 #2「パズル」

人々がそれを忘れた頃。
それは人々に思い出させた。
少なくとも、それを追う狩人には。
追われるはずの狩人の手中とも知らず。
 
 
 
 
「…寒いな…」
「先輩、コーヒー入ります?」
「あ、わりぃ、買ってきてくれね?」
「構わないですよ?」
「わりぃな」
「一つ、貸し、ですからね?」
「…へいへい」
 
 
新入りの…なんだっけな…、あ、そうそう、穂波くんだっけか。
彼はなかなか愛想が良い。
そんでもってなかなかの女形だ、と思う。
…女だったら、良かっただろうに…。
 
 
「先輩、コレ。」
「お、さんきゅ」
 
 
 
「先輩…」
 
遠くで、響く…?
 
 
 
「寝ちゃうんですか?」
 
 
…まさか…そんなわけ…
 
 
 
……っ。
 
「ああ、ダメですよ、先輩。」
「…穂…波…」
「…寝ててもらわないと…っ」
 
ガンッ
 
鈍く、響く。
 
 
遠くで、響く。
 
 
「……これから…」
 
何が…これからなんだ…
 
「色々…」
 
 
「さあ、起きてください」
 
 
目を覚ました瞬間、穂波が、笑っていた。
…普段とは違う笑みを浮かべて。
 
 
「…っ…お前っ…」
「ダメですよ、暴れちゃ…」
「お前っ…なにやってっ…」
「…何を?…フフッ…」
「何がおかしい…?!」
 
 
「貸しを、返してもらおうかな、と。」
 
 
貸し…?
 
「…ボクの欲求を、聞いてもらう番です。」
「…この…衝動を」
 
 
ブイイイイイイイイイイン…
 
広い倉庫を、チェーンソーの鳴き声が響く。
 
「さあ、コーヒーのあとは、メインディッシュですよ…?」
 
 
 
 
目の前を、暗闇が襲う、その少し前。
 
こう、呟いていた。
 
「そうそう。」
「ボクはね、穂波なんて名前じゃないんです。」
「ボクは…ヒロといいます。」
「それじゃ、ミヅキによろしく、先輩。」
 
 
 
「…なんじゃこりゃ…」
眞田刑事が見つけたソレには、こう書かれていた。
 
 
「お久しぶりです みなさん 鎌です
みなさん覚えてますかね あのバレンタイン
そう あのバラバラパズル
クールでしたよね?
今回は特別にヒントも置いておきます
さあ 解いてみてください
コレが何を意味するか コレがバレンタインとどう繋がっているかを
 
   鎌 」
 
 
「あのやろう…人をなんだと思ってやがる…」
 
そこには、
ネクタイとヘルメットが飾られた、バラバラに繋ぎあわされた男の姿。
…男と辛うじてわかるほど、ひどい有り様だった。
 
「バレンタインといい…今回といい…」
「…どういうやつだ…」
 
 
 
「…捜査当局は現在総力を尽くして捜査中ですが、未だ正確な情報をつかめずにいます…」
 
ピッ
 
「…『バレンタイン女子高生殺人事件』と同一犯による犯行と見られておりますが、未だ犯人の動機など不明瞭な点が多く残っております…」
 
プツン
 
「…甘い」
 
男は、笑った。
音を出さずに。
 
カラスが一羽、留まっている。
そのカラスを蒼い銀色が貫く。
…薔薇が一輪。
 
「ボクを知る人なんていないよ…」
「…お前らがボクを…」
「殺したんだから…!」
 
 
 
      続く