自分の、ゆめ。

寒空の中久々に綺麗な夕日を見た。
 
部活もあったりするので、最近は随分とご無沙汰だった。
それと、独りだった。
 
 
 
たまには、いいよね。
たまには、ね。
 
 
 
 
 
いつからあんな夕陽を好きになったのだろう。
 
 
話は小6まで遡る。
 
そのころは受験間近だった、にもかかわらず普通の毎日を過ごしていた。
別段、何事もなく、普通に。
ただその普通が少し変であったのは、また別の話。
 
恋をしていた。
 
何故か無性に、自然と好きになった女の子がいた。
だから、自分なりに、何かしら、行動は起こしていた。
 
だから、あの頃の自分は、そういうことしか考えてなかったし、それが全てだった。
少なくとも、今とは違う夕陽の見方をしていた。
 
 
冬の足音が近づく頃、振られた。
 
予感がなかったわけではない。
クラスは違った、女友達がほぼ常にいた、塾で放課後遊ぶ約束をすることはめったになかった、そして、少し冷めていた。
きっと、その時の自分は、ただ「好き」といいたくて仕方がなかっただけだったのかもしれない。
その向こうの、本当の「好き」な気持ちなんて、最初からなかったのかもしれない。
 
でも、それでも。
 
その時は、泣いた。
くだらないことだって、蔑みながら。
 
 
それがきっかけで、自分は、性格に変化が訪れる事となった。
どうでもいいことだと、思っていたことに、どうでもよくないくらいに変えられてしまった。
 
 
 
やがて、今通っている学校に受かり、通う事になる。
 
しかし、その時点ですでに、随分と自分の中の闇は進行していた。
 
 
 
正義。
自らが一番のよりどころとしていた、といっても過言ではない概念。
その概念に、疑念が生ずるようになる。
 
 
実は、「少し変だった普通」の中には、学級崩壊も含まれていた。
 
教室に先生が2人。
それでもなお騒ぐのをやめない同級生。
下ネタを絶えず連呼、テストもまともにうけない。
話し合う余地すら、ない。
 
最初に来た先生は、あまりの心労のために入院してしまったほどだった。
そのことも、随分、考えさせられたことだった。
 
自分は半ば、いわば学級委員長のような立ち位置だった。
別にそういう職についていたわけではないが、成績とか性格とかで何故かそういう側にいた。
かといって心からそういう同級生を憎むわけでもなく、休み時間になればサッカーやったり、どうしようもないことを話したりもした。
その頃から、人付き合いは、悪くはなかった。
 
受験期。
どうやらそれは人の心を蝕んでいく季節らしい。
 
もはや捻じ曲がったといっても過言ではなかったほどの正義を主張して、同級生にむかって「同級生の親の指導に問題がある」と言い放ったことがある。
ほとんど受け売りの文句だったけれども。
それでも、そういったことに悔やみはしなかったし、反省すらしなかった。
だから、余計。
人との距離の置き方に狂いが生じてきた。
 
 
きっとその頃からだろう。
自分は、ますますすすんで人へと近づくようにはならなくなった。
 
 
 
そうやって、何を言っても伝わらない連中なんだと知って。
自分なんかが言ったところで、どうせ変わりゃしないんだと思って。
この正義に、不安を持って。
闇が生まれた。
 
 
 
きっと皆知らなかっただろうが、正直、中1・2の時は酷かった。
ずっと苦しめられてた。
ずっと。
 
 
自分が嫌いで、他人の介入が嫌で、いろんなことが嫌で。
ネットに逃げ込んだし、アニメにも逃げた。
ともかく逃げた。
 
 
それでも、こうやって、生きる事からは逃げずに来れた。
本当ならもうとっくのとうに逃げ去ってしまってもおかしくなかったほど、ひどくひどく傷ついていたのに。
死にたい、って。
しきりにそう、呟いていたのに。
 
 
 
自殺は、悪だった。
ダメだ、って、ずっと言ってた。
・・・いや、むしろ。
それが出来るほどの勇気すらなかったのかもしれない。
 
 
人を殺す事よりも、自分を殺す方が、難しい。
無論、自分にとって、人を殺す事に意味はない。
あるのは、罪の意識だけ。
そして、それから逃れられるだけの強さもないことも、分かっていた。
だから、無理やり、生きた。
 
 
 
 
 
 
 
 
茅原実里
 
 
 
 
彼女の素直さ、天然さ、歌声、演技。
ともかく好きになれた。
 
 
それは、書類上は今も所属している物理部の頃。
 
当時、「涼宮ハルヒの憂鬱」が流行っていた。
そのなかで自分は、長門有希というキャラクターが好きだった。
不思議性、いかにも「中二病」的なフレーズの嵐、眼鏡、無表情・・・いわゆる「属性」である。
それが好きで、調べた。
そして、その声優をしていたのが、茅原実里さんだった。
 
夏ごろ。
彼女の重大発表がある、と聞いて本来部活がないはずの日に部活といい張って横浜まで遠出。
 
アルバム「Contact」の発表だった。
すぐさま予約し、秋を待った。
 
 
そして、「Contact」にめぐり合って。
そうやって、茅原実里というアーティストにめぐり合った。
 
 
そこからはもう、ずっと。
彼女はずっと輝いていて、まぶしくて・・・羨ましかった。
あぁいう風になりたい、と切に願った。
・・・自分を嫌いにならないでいられた瞬間が出来た。
 
 
中1の冬。
物理部の幽霊部員の一人と化していた自分に、級友から声がかかった。
 
吹奏楽、やらないか。
 
 
昔から音楽は好きで、音楽の授業のたびに音楽室のピアノに触れていた。
それはこの学校に通うようになってからはほぼ毎回で。
それもあって、声をかけられたのではないかな、と思っている。
 
 
 
そして、そこで、すごくすごく理不尽な理由から、パーカッション・ドラムにめぐり合う事となる。
このことは、すごく大きい。
 
 
 
ちなみに、長紋氏にはその当時から非常によくお世話になっている。
・・・大声で言うのも恥ずかしいけれども、凄く、言葉に出来ないくらい、ありがたく思っている。
中学・高校時代を「青春」と定めるならば、自分にとっての青春の半分は、まさしく長紋氏であると思っているほどである。
・・・恥ずかしいけど。
 
 
 
 
この部活に入った事で、今まで聞かなかったジャンルの音楽にめぐり合う事が出来た。
・・・主に長紋氏とメレオン氏によって。
好きな曲が増えるのは、純粋に素晴らしい事だ。
多ければ多いほどに、嬉しくなれる頻度も高くなるから。
 
 
いろんな世界観を知れた。
そのことが、すごく、大きい。
 
自分の今まで知るよしもなかったことを知れる、そのことがどれほど大きい事だろう。
その分だけ考える時の幅も広がるし、純粋に人間としての器に磨きがかかる。
それを心に刻み付けてくれたもの、自分にとっては、それこそが音楽だった。
 
 
 
・・・思えば。
 
茅原実里という女性を好きなのか。
はたまた、茅原実里というアーティストが好きなのか。
実は未だに答えは出ていない。
ただ。
アーティストとしての茅原実里を好きになったのが最初だという事は、明確である。
 
 
 
そうやって。
 
 
音楽に関することが、自分を取り巻くようになって。
今やバンドとかもするようになって。
少しずつ、音楽という概念に身を置くようになって。
 
 
 
 
嬉しい。
 
 
 
 
ついこの間まで、泣いて、泣いて、泣いて。
同じ質問を何度も繰り返して、自分自身の無能さに絶望して。
それでも、生きて。
 
 
 
そんな自分があって。
そんな環境があって。
 
 
 
 
 
衣食住に困ってない。
家族も友達もいる。
居場所がある。
好きなものだってある。
 
 
何一つ、ないものなんてない。
悲しくなんて、ない。
 
 
 
きっと。
きっと、こういう考えを持たせてくれるために、生かしてくれたんだろう。
少なくとも、少し前の自分なら、思わなかったことだ。
 
 
 
 
 
闇が崩れたかどうかはわからない。
でも、それでも。
希望の光が見えてくるほどに、よどんでいた雲は晴れてきた。
夕陽の色かどうかは、まだわからないけど。
 
 
 
・・・そう。
なんといっても、彼女の武道館公演ははずせない。
 
 
 
長年彼女の抱いてきた夢が。
彼女の思い描いていたステージが。
叶った。
叶った。
 
ただそのことだけが、すごく嬉しくて。
 
 
自分の希望の星が、自らの夢をモノにした。
その事実が、とても、受け入れがたいくらいに、身にしみてきて。
それはもう、自分のことのように、大いに喜んだ。
 
 
夢は、叶うんだ、って。
 
 
 
 
それ以来、ずっと思っている。
 
 
 
同じステージに、立ちたい、って。
 
 
 
 
少なくとも、あの舞台で、自分の曲が流れて欲しい。
 
漠然とした、大きな、夢。
 
 
 
 
 
 
 
だから。
 
今は、生きたい。
ただひたすらに生きたい。
 
 
50年後、自分の音楽が生きているかどうか。
それを確かめるために、生きたい。
 
 
あと少し。
 
それが時間として長いか短いかなんて知らない。
でも、あと、少し。
生きていたい。
 
薄汚れた空気を吸い込んで、重たい荷物にため息をつき、凍える手のひらの感覚に戸惑い、暑さにうなされた体をもてあそんで。
泣いて、笑って、怒って。
 
ただのでくのぼうに過ぎなかった自分が、誰かの立派な支柱になれるように。
死んだ魚のような目をしている自分が、光を放つ星になれるように。
こんな、ちっぽけな人間が、夢舞台に立てるように。
 
だから。
それまでは。
 
死ねない。
死なない。
 
 
 
絶対に。
 
 
 
 
 
 
 
 
たまには、こういうのも、悪くないよね。
恥ずかしいけど。
 
 
 
 
多分、これが。
今の、自分の、ゆめ。